保険会社には「相互会社」というこの業界に独特の形態がある。
保険会社が採るもうひとつの組織形態が「株式会社」であり、こちらは株主が資本金を供出してそれを元手に事業をおこなう、すべての業態にあるいわゆる株式会社だ。
相互会社は契約者すべてが「社員」という立場となり、彼らが払い込む保険料が保険業務の運営資金となる。大勢の人たちがお金を出し合い、それをプールしておき、もしそのメンバーの中で不幸にも死亡者が出たときにそれが原因で残された家族が困窮しないように生活に必要な資金をそこから支払うというのが保険が誕生した経緯であるが、相互会社とはその相互扶助の精神に基づいた組織であると言える。
相互会社と株式会社の大きな違い。それは大きく「利益・余剰金の分配の仕方」と「資金調達の柔軟性」にあると言える。
「利益・余剰金の分配の仕方」については、相互会社の場合、保険金の運用が上手くいって余剰金が出ればそれは社員である契約者にのみ分配することになる一方、株式会社の場合は株主にも配当をすることになり、分配先が契約者のみにとどまらないという違いだ。
「資金調達の柔軟性」ついては、もし相互会社が何らかの理由により保険料以上の資金が必要な場合下必ず返済義務がある基金を機関投資家などから募るという形を採る必要があるのに対し、株式会社は債券や融資による調達以外にも株式発行による返済の必要のない資金調達もできるということである。また相互会社は相互会社同士でしか合併が許されないのに対し、株式会社であれば他業界や海外の会社ともM&Aが可能な点で広い意味でも資金調達がより柔軟であるとも言える。
Grandtag社創業者Mr.J.Leung
すこし話がそれるが、ここで扱っている情報の多くは私が香港で金融商品及び保険の取扱免許を保有しているファイナンシャルアドバイザーとして、その登録をおこなっているGrandtag社(投資アドバイザリー会社、IFA)の最高責任者であり、私自身のメンターでもあり、この「世界最先端のバリエーションを誇る米国・オフショア生命保険を語る」シリーズの共同執筆者でもあるMr.J.Leungから提供されている。Mr.J.Leungは40年以上に渡って香港の保険業界に携わっており、彼が設立した投資アドバイザリー会社は香港で最大級の規模を誇り、最も歴史あるIFAのひとつ。彼はまたシンガポールと米国でそれぞれ17年と12年の歴史をもつグループ会社を運営しており、アジア全域でサービスを提供している。ここで公開されている過去30年間に日本人が利用者した商品についての情報は彼の記録とデータに基づいたものだ。
話を元に戻す。この後の号では、引き続き米国の保険について数回、そしてその後数回に渡ってはシンガポールと香港におけるソリューションについて記述する予定である。
まずは北米(米国とカナダ)の保険会社を組織的に分類すると以下のようになる。
1.株式会社(上場企業):CEOは取締役会によって任命される
リンカーン生命保険(Lincoln Financial Life Insurance)、AIG、パシフィック生命保険(Pacific Life Insurance)、サンライフ(Sun Life)、マニュライフ(Manulife)等
2.相互会社:会社の所有者は保険契約者
ニューヨークライフ(New York Life Insurance)、パンアメリカン(Pan American Life Insurance)、マスミューチュアル生命保険(Massachusetts Mutual Life Insurance)等
3. 個人経営会社:一人または複数人の関係者のみが株主となっている
アメリタス生命保険(Ameritas Life Insurance)、シメトラライフ(Symetra Life Insurance)※2015年に住友生命が買収
ひとつ付け加えておきたいのは生命保険会社の安全性・信頼性は上場・非上場という会社の構造に関わらず米国の保険当局がソルベンシー・マージン比率の基準によって厳しく管理していることにより担保されているということ、そして保険会社がお互いに保険を掛け合う再保険の仕組みがあるということだ。銀行に対する最大の脅威が多くの預金者が一斉に預金を引き出すことにあるのと同様に、保険会社の最大の脅威は最近ではアメリカで発生した同時多発テロや日本の東日本大震災、世界中が巻き込まれたコロナパンデミックなどのように一度に多額の保険金の支払いが発生する事態である。
ソルベンシー・マージン比率を厳格に守らせることによって保険金の支払余力を確保したうえで、再保険により実際には保険金支払いの当事者となる保険会社は10〜20%のリスクのみを負担し、残りのリスクは2つ以上の再保険会社と共有するという慣行によって国内の保険事業の健全な運営を確保している。
最後にまた余談になるが、現在は伝統的な相互生命保険会社を株式会社に改組して上場する流れが加速しており、その過程で私のメンターであるMr.J.Leungが経験した興味深い出来事をシェアしたい。彼は20数年前に当時は相互会社であったサンライフの保険を契約した。その後間もなくして、サンライフの取締役会はニューヨーク証券取引所を含むいくつかの株式市場に上場する構想を決定した。そのとき契約者として相互会社サンライフの社員という立場であった彼を含むすべての契約者に上場に関する議決権行使の投票用紙が送られてきた。
結果として圧倒的多数で株式公開が可決され、
その後保有する保険価値に基づいて相応の株式が契約者に発行されたとのこと。これは降って湧いた一種のストック・オプションのようなものであり、思いがけない個人資産増強につながった。現在、相互会社の状態にある保険会社のプランを申し込むことでそのような機会に恵まれることがあるかもしれない。次回は日本人の申し込みが可能な商品と受け入れに積極的な企業について記述したい。